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5月 読書コーチと図書館の楽しみ方

ヘルシンキの図書館は市民のリビングルームのようなもの。人が集い寛ぐ。図書館のほうも、人々が気軽に立ち寄れるように地域に密着したサービスや催しを工夫している。赤ちゃんも大歓迎…そんな映画上映会もある。楽器の貸し出しもあれば、おもちゃやゲームで遊べるコーナーもある。本だけではないのだ。

 

先日すぐにチェックしたい本があり、少し離れた図書館に行った。そのときに「読書コーチのご案内」という掲示を見つけた。聞くと、この図書館では「あなたにぴったりの本を推薦しますよ」というサービスなのだそうだ。しかも無料だ。これはおもしろそう。フィンランドで暮らしていると、本当にみんなよく本を読むと思う場面が多いので、本好きを育てる秘密に触れたいという気持ちもあった。

 

メールでやりとりし、ある程度の嗜好を伝えたら、それを元にコーチが本を選ぶ。推薦本が決まったところでコーチとの面会だ。場所は図書館の秘密の部屋。地下への細い階段を下りていくと、100年ほど前で時が止まったような風情の図書室だった。

 

コーチから本の解説がある。今回選んだ本の基準を説明した上で、一冊一冊の本について話してくれる。フィンランド、自然、若手作家、古典、本として斬新な作品などなど、一冊としてタイプの近い本はなく、そしてどれもとても面白そうだった。さらに本の解説をまとめたプリントまでいただいた。

 

読書が苦手な人でも本が好きになりそうね、と話すと、実は本好きも積極的に読書コーチのお世話になるのだそうだ。「何もかも手当たりしだい読んでしまいました。私はあと何を読めばいいの?」なんて人もいるのだとか。または「癌という言葉が一回も出てこない本を教えてください」というリクエストもあるのだとか。

 

図書館の強みは、本に詳しい人たちのネットワークがあること。書棚の前に立ち自分で本を見つける楽しみもあるけれど、本に詳しい人たちが吟味し推薦してくれた本に触れる楽しみ。自分の世界がじんわりと広がっていく心地よさを味わわせてもらっている。

春の到来にリスたちも嬉しそう。

読書コーチがあらかじめ用意しておいてくれた推薦本。それぞれの本について解説もしてくれる。

日照時間がぐんぐんと長くなる。夜の散歩を楽しむ人も多い。

森下圭子さん

Keiko Morishita-Hiltunenさん

 

ムーミンが大好きで、ムーミンとその作家トーベ・ヤンソン研究のためにフィンランドへ渡り、そのまま住み続けている森下さん。今はムーミン研究家として、またフィンランドの芸術活動や、日本へフィンランドを伝える窓口として、幅広く活躍中。

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