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1月 北極、太陽の出ない世界

北極圏には極夜と呼ばれる時期がある。これは太陽が沈まない夏の白夜の反対、つまり太陽がまったく昇らないのだ。極夜の時期はずっと闇が支配する、そんな世界を想像されるかもしれない、なにせ太陽が出てないというのだから。ところが実際は明るくもなる。

北極圏からさらに北へ300km、太陽の昇らない小さな村で寒い冬の日を何日か過ごした。-30℃なんていう日があったほどで、その村の人は-50℃を経験したこともあるという。ちなみに-50℃にもなると、普通に動けないのだそうだ。月面着陸を果たした宇宙飛行士みたいな動きだったと話してくれた。動くのも、空気を吸うのもゆっくり。

 

さて実際に極夜の地にいると、ささいな光が際立って感じられるような気がする。誰の足跡もないまっさらな雪に当たる光、風すら地平線の下にある太陽の光を届けてくれるかのように吹きつける。太陽は昇らないけれど、地平線に近くなると空の一部が真っ赤に染まったり、空が白んだりするのだ。昼には抜けるような青空が目立ち、でも太陽の昇らない空は、どこかいつも闇を抱えている。ゆらゆら刻々と空の色が変わり、空気の色も刻々と変わる。そして毎日のように空の感じも光の加減も違うものだから、空をみても一向に時間の検討がつかない。

青空にぽっかりと月が浮かび、やがてその月が明るさを増しながら空は青から紺に姿を変え、やがて闇が訪れる。闇には月の輪がぱっと広がったり、月明かりの下、空気がダイアモンドダストでキラキラしたり。満天の星は降るようで、ときおりぽつり、星が流れていく。月明かりがそれほど強くなければ、雲ひとつない夜空にオーロラが現れることもある。

白い雪は月の光を反射し、遠くのほうまで視界がきくほど。こんなときの焚き火の炎の、なんと暖かそうなこと。一日のいろんな時間の光が、なんとも愛おしい。だからといって光を追っていたら、生活リズムがあっという間にぐちゃぐちゃになってしまった。太陽がでないっていうのは、やっぱり体内時計がうまく働いてくれない、そういうことなのかもしれない。

これがお昼頃の景色。

午後3時ごろ。寒く晴れた日には、広い空に朝と昼と夕暮れと夜がすべて見渡せるよう。向く方向によって、空気の色も空の色も違う。

雪の白さが月明かりを受けて、雲のない夜は森の中も視界がきく。

森下圭子さん

Keiko Morishita-Hiltunenさん

 

ムーミンが大好きで、ムーミンとその作家トーベ・ヤンソン研究のためにフィンランドへ渡り、そのまま住み続けている森下さん。今はムーミン研究家として、またフィンランドの芸術活動や、日本へフィンランドを伝える窓口として、幅広く活躍中。

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