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10月 冬がくる前に

朝おきて外を見るとまだ暗い。森へきのこ狩りに行っても、暗くなる前に森をでなければと少しせわしくなったりする。もうそういう季節なのだ。日照時間はこれからどんどん短くなって、そしてまだ暗い夜のような空の下を通勤する毎日になる。地下鉄やバスの中では読書する人たちに混じって編み物をする人たちがひとり、またひとりと増えていく。

編み物はフィンランドの日常に欠かせないと考えられているようで、小学校でもしっかり習う。はじめは鍋つかみから。ぐるぐると丸く編んでいく途中で先生がチェックをしてまわる。網目がとんでたり形が丸から遠ざかっていると、先生たちは児童の編む鍋つかみを躊躇なくほどいていってしまうのだとか。そういえばフィンランドの人たちって折り紙では角がとがってなくても平気そうにしているのに、編み物の網目には厳しいかも。そうか、子供の頃の妥協知らずの編み物教育が影響しているのかもな。小さい頃から親しんでいるものは少し歪んでるだけでも何だか気持ち悪いっていう感覚、ありますもんね。

通勤時間に見かける編み物の多くはマフラーや靴下といったものが多い。どれも実用的。毛糸の靴下はプレゼントにも喜ばれるしクリスマスプレゼントの定番でもある。それから最近すっかり定着している若い男の子たちの自分編み人気アイテムといえばニットキャップ。これは小学生のときに鍋つかみで覚えた技術があれば大丈夫。

秋が一段と深まって、私の友人はきのこを使って毛糸を染めている。私はわたしで生まれて初めて植物をつかって草木染めをした。自然の色で染めた毛糸は、どの色に仕上がっても互いの色の調和がすこぶるいい。どんな風に組み合わせてもしっくりくるのだ。そろそろ雪も降るだろう。雪に覆われると草木もきのこも見えない。そんな森の恵みを使って染めた毛糸を手に編み物に興じる。冬も楽しくなりそうだ。まずは手始めに靴下あたりから編もうか。ここのところスマートフォンをいじってばかりの通勤時間。私もそろそろ編み物する人たちの仲間入りをしようと思う。

冬を前にリスも大忙し。どんぐりを拾ってはあちこちに隠しています。

草木染め。草木が枯れてしまう前に摘みとって、自然の色をこうして毛糸に残します。

夕暮れは鮮やかで、驚くほどあっという間の出来事になってしまいました。ふと目を離した隙に夜の暗闇が広がってしまうのです。

森下圭子さん

Keiko Morishita-Hiltunenさん

 

ムーミンが大好きで、ムーミンとその作家トーベ・ヤンソン研究のためにフィンランドへ渡り、そのまま住み続けている森下さん。今はムーミン研究家として、またフィンランドの芸術活動や、日本へフィンランドを伝える窓口として、幅広く活躍中。

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