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5月 白樺よ、なぜにあなたは

ヘルシンキの街は公園という公園に花が咲きほころんでいる。春を告げる花が花びらを広げたと思ったら、あとは一斉に。色とりどりのいろんな花が仲良く一緒に咲きだす。予算削減でゴミや道路の清掃が滞りがちでも、公園の手入れだけは春先に一気に行なわれる。春景色の演出だけは外せない、ということだろうか。

どこもかしこも若葉の初々しい緑。目に眩しい春たけなわの姿はやっぱり嬉しい。あっという間に自転車人口も増えたし、犬の散歩もただ歩いてるだけじゃない。公園で休憩をとりながら、居合わせた犬同士が戯れる時間がゆったりと流れる。その傍にはお弁当をもって芝生の上で本を読む人もいる。春を待ってオープンした海沿いのアイススタンドでアイスを買い、心地良い潮風の中で太陽の光がキラキラ踊る水面に心踊られる人がいたり。そうそう仕事道具を外に持ち出し青空の下で仕事に励む人たちの姿も見かける。

 

自分の好きな木や森に挨拶するように自転車でぐるぐるとあちこちを巡った週末の夜。私の白樺花粉症は熱をだすほどまでに症状が悪化してしまった。白樺花粉と粉塵の組み合わせが悩ましいのなんのって。正直なところ、公園の手入れの前に粉塵を洗い流してくださいという気分だ。白樺といえば、葉をハーブティーにしていただくこともあるし、やわらかな葉のついた枝の束をサウナで使い血の巡りを良くさせたりもする。重宝しているし、体にもいい。花粉症と健康の源、白樺よどうして…と複雑な気分だ。

 

フィンランドではマスクが市民権を得ていない。マスクをしていると「ただならぬ病気」の人かと思うらしく、マスクの人は怖がられ遠ざけられてしまう。数年前、ニュース番組で花粉症対策にマスクが紹介されたこともあったけれど、定着することはなかった。今ではマスクのマの字すら見かけない。

 

なす術なく花粉の時期が終わるまで、森や公園の緑をさっと見過ごしていくしかない。白樺花粉の時期が到来してない北極圏へ行こうかなんて衝動にもかられるけれど、目の前にある春の光景は捨てがたい。結局は花粉症に悩まされつつも、こうしてヘルシンキに留まってしまっている。

陽を浴びた葉が、自分から光を放っているようにキラキラしている。花粉症で辛いというのに誘惑に負け、ついつい森へ行きたくなってしまう。

 

待ってました、雨。花粉症のときはこれを待つしかない。鼻づまりだというのに、じわりじわりと新鮮な緑や土の香りが鼻の奥に届く。

花粉症が功を奏するとき。春のうちに夏小屋を掃除し、すがすがしい気持ちで夏を迎えたい。離れのぽっとんトイレの汲み取りも、当然ながら自分たちでやる。花粉症のおかげで全然匂わず。

 

森下圭子さん

Keiko Morishita-Hiltunenさん

 

ムーミンが大好きで、ムーミンとその作家トーベ・ヤンソン研究のためにフィンランドへ渡り、そのまま住み続けている森下さん。今はムーミン研究家として、またフィンランドの芸術活動や、日本へフィンランドを伝える窓口として、幅広く活躍中。

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